3月18日、春の睡眠の日に開催したウェビナー第二部の内容をお届けいたします。
◇ウェビナー概要
タイトル:【睡眠の日特別企画】現役アスリート×サッカー日本代表フィジカルコーチ×休養学専門家『攻めの睡眠』のカタチを探る
実施日:2022年3月18日(金)13:30〜14:30
第一部:プロサッカー選手による本当は教えたくない、アスリートの「睡眠」事情
第二部:徹底討論「睡眠」をデューデリする!と題して、『攻めの睡眠』のカタチを探ります。
◇【徹底討論】『睡眠』をデューデリする!睡眠は、投資するに値することなのか。14:00〜14:40(40分)
第二部では、永井雄一郎選手と、サッカー日本代表フィジカルコーチとしてトップアスリートの身体を支える大塚慶輔氏、休養・疲労・睡眠研究でアスリートやビジネスマンをサポートする休養学専門家の片野秀樹氏が、睡眠がもたらす価値や睡眠不足のリスクについて徹底討論します。
◇はやぶさイレブン 永井 雄一郎 監督兼選手、水野 晃樹 選手
◇株式会社ライフパフォーマンス 代表取締役/なでしこジャパン兼U-19日本代表フィジカルコーチ 大塚 慶輔氏
◇医学博士/株式会社ベネクス 取締役副社長/日本リカバリー協会 代表理事 片野秀樹氏
◇ファシリテーター 日本リカバリー協会理事 春木 完堂氏
【徹底討論】『睡眠』をデューデリする!睡眠は、投資するに値することなのか。
<後編:現役アスリートも知りたい!眠れない、休めない日の対処法>
(中編のまとめ)
中編では、大塚氏より質の良い睡眠を取るために行う入浴や食事のタイミングについてのアドバイスを、そして片野氏からは休養におけるアプローチについて、海外事例を交えて教えていただきました。
・・・中編からの続き
春木:水野選手も一部では若い時は寝る時間を惜しんで活動していたというお話がありましたが、大塚さんがアスリートは8〜9時間の睡眠時間が推奨だという点、どう感じましたか?
水野選手:いや〜、2時間足りないですね(苦笑)
永井選手兼監督:今でも?
水野選手:そう、今6時間睡眠で考えていましたから。でもそういう知識も人(専門家)から聞かないとわからないですし、一般的な方と比べてアスリートは夜の試合があり、次は朝から練習と定期的にできるものではないため、難しい点もあると感じましたが、若い時に知恵や情報はたくさんあったほうが選手のためになると思いました。僕らは終わりかけに近い(笑)というか、だいぶ(年齢的にも)上の方まで来てしまいましたが、今のチームの若い選手たちにも今回の話を還元してチームの力をあげていきたいと思いました。選手によってはこの話を聞いて、やるやらないでの差も出てくるでしょうし、自分もやりながら若い選手に伝えたいと思いました。
春木:ありがとうございます。さらに選手お二人に伺いたいのですが、サッカーはシーズンが長いスポーツだと思っています。Jリーグは3月くらいに開幕してから、12月までシーズンが続き、夏場の試合もかなりあるかと思います。世界からみても特別なシーズン体系かと思っていますが、年間を通してシーズンスポーツとしてコンディションを維持するために意識されていること、苦労されていることはありますか?
永井選手兼監督:シーズンを通してコンディションを整えていく中で、正直な話を言うとリーグ戦数十試合の中で、どこも痛くない状態で試合に臨めるのは2〜3試合しかありません。どこかしらを痛めていて、疲労を感じている中で戦わなければならないという状態で、僕自身が良く考えていたのはフィジカルコンディション50%、メンタルコンディション50%としていました。
春木:実際は、多くの試合がベストコンディションで迎えられないのですね。その中でどのようにコントロールをしていくのですか?
永井選手兼監督:ベストならば100%になるのですが、フィジカルコンディションが20%しかなくても、メンタルコントロールをなんとか50%までにもっていくことで全体の70%の状態にする。そういう考え方をして、なるべく不安状態にならないようにしていました。ピッチに立った時になるべく不安な状態に陥らないためのマインドコントロールにはなりますが、自分が納得してピッチに立てているのか、良いパフォーマンスを出せるのかというコンディションにもっていくための方法として考えていました。
春木:とても参考になりますね。フィジカルコンディションを、メンタルコントロールで補完するのですね。
永井選手兼監督:大塚さんに睡眠の分野で質問があるのですが、肉体的な疲労に関しては選手も寝るを選択していると思いますが、精神的な疲労を感じていると逆に眠れないことがあります。これはどういう風にアプローチしたら眠れるようになりますか?正直隣にいる(水野)選手とかも僕が監督になったのでストレスをたくさん吹っ掛けてくるんですよ(笑)
水野選手:ストレスになっていました?(大爆笑)
永井選手兼監督:肉体的に疲れていないのに精神的に疲れていて眠れないんですよね。そういう時にどうしたらよいですか?
大塚氏:それは飲みにいって発散しているんじゃないのですか(笑)特に試合直後などはストレスがあって眠れないと思いますが、ぼく個人としてはお酒を飲むのもひとつの手段かなと思っています。ある程度そこに対して許容していて、その分、お酒を飲むならば同じくらいの水分を補給してくださいと伝えたり、ナイターゲームでアウェーで絶対この日は行っちゃだめよという日があるじゃないですか(笑)
永井選手兼監督/水野選手:爆笑
大塚氏:その際には試合の前後で体重を測っているのでロッカールームを出る前に体重を戻してから飲みに行くように促し、水分補給のアドバイスもよくしていました。あと、試合によってスタッフやチームメイトの顔も見たくない時もあって、通常だと試合翌日はリカバリーをしてオフするスケジュールなのですが、そういう時はあえて翌日にオフにしたり、選手を察して対応していました。
永井選手兼監督:参考になります。監督という立場が加わるので、違う視点でチームに関わることが多いので。
大塚氏:あとはコーチングとして、サッカーとは関係のない第三者の方に自分の考え方や意見を聞いてもらうということを僕もオプションでやったことがあります。これによりなぜ自分がサッカーをしているのか。なぜ、このクラブで監督、選手、コーチをしているのか。を聞いてもらうことによって、逆算してその考えや今囚われていることが小さく感じ、本当の大義名分を思い出すきっかけになるということをビジネスコーチングの方からそのテクニックを教わったこともありました。これらを思い出して、心を平静に保つようにしていました。正直、選手の時はもう飲みに行っちゃってもいいと思っています。
永井選手兼監督:次の日に練習試合が入っているときが一番きついんですよね。あとは途中で中途半端に試合に出たりして、次の日の練習試合の組に入ると、移動もあり、その中で睡眠も確保しないといけないなどかなり大変です。
大塚氏:移動の時に眠れないという時は、試合当日は寝るのをあきらめた方がいいと思います。ここで大事なのは次の日のリカバリーの日で、そこの夜に睡眠をしっかり取らなければならなくて、睡眠の質を高めないといけない。逆に移動時間に寝て、睡眠を2~3時間ほど取ってしまうと、夜の睡眠の質が落ちてしまいます。そのため、選手に良く言うのは移動時間には眠らなくていいと。それは、練習試合のパフォーマンスが落ちてもしょうがない。それは出なくてはいけない状態は監督を含めてあるので、そこは(サポート陣も)クリアにしておいて、その代わり翌日はしっかり眠れるように意識してもらうようにするという話はしていました。
永井選手兼監督:コーチ陣の状況把握は本当に大事ですね。
大塚氏:そうですね。当然、若い選手でアピールしないといけない選手は飲んでいる場合ではないし、しっかりと寝て自己管理してねという話はしますが、ベテランの選手には、逆に眠れないのがわかっていたら練習試合をスキップしたりとか、出場時間を短くしたりするなどしてその代わり、出場の瞬間は集中してほしいということを伝えていました。
春木:ありがとうございます。大塚さんから時間の管理や試合から逆算した曜日の使い方などがあがりましたが、アスリートの考え方を含め、シーズンスポーツとしてビジネスマンはずっとシーズンスポーツと同等と考えたときに週内休養の考え方などのアドバイスをいただけますか。
片野:週内休養についてですが、一般の考え方として、私たちは「5と2」、「2と5」で分けるようにと伝えております。これは、平日と休日をどのように捉えるかということです。一般の方の休日は土日になりますが、5日間の後に2日のお休みがあるという考え方をすることにより、なんとか5日を乗り越えて、2日間に流れ込もうということになります。これにより5日間しっかりとパフォーマンスに繋がっているかというと決してそうではないということです。
春木:一般の方は主にそのようにしているイメージですよね。
片野:我々の考え方としては、より良いパフォーマンスをするためには、2日の休日を手前に持ってくるという風に考えています。最初の2日間の休日でしっかり自身の活力のエネルギーを高め、その蓄えた力で5日間のパフォーマンスに繋げるという発想に切り替えていただきたいと思っています。仮にその2日間の休日の活力が水曜に途切れてしまうようでしたら、その日は早く帰る、もしくは休んでしまうという手段もあると思います。先ほどの大塚さんのお話にも繋がるかもしれません。しっかりと活力をあげて残りの日を過ごすというように考えていただくと、自分自身でどれだけ活力があれば、その日を乗り切れるのかわかってくると思います。それにより、より効率よくパフォーマンスがあがるようになってくると思います。
春木:ありがとうございます。やはり先ほどの永井選手たちのお話にもありましたが、自分の身体に正直に向き合い、感覚も大事にしながら自分の最適解を作ることが大事なのかと思いました。時間が迫って参りました、大塚さん、永井選手、水野選手ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
睡眠の日ウェビナーQ&A
参加者の皆さまからお寄せいただいたご質問に、大塚氏より回答をいただきました。
Q. フィジカルコーチやメディカルからの寝れない時の対処などの指導はありましたか?
A. 3時間前:食事
2時間前:入浴
1時間(30分前):スマホ(PC)、ゲームなどはやらない
30分前:入眠前エクササイズ(呼吸をしやすい)、間接照明で過ごす、アロマetc
上記を基準に選手に必要な情報を伝えています。
Q. ご飯の時間や起床時間、昼寝のタイミングなどの指導はありましたか?
A. 食べた物(固形物)が消化管を通る時間を考えると、トレーニングの約2時間半前に食事を終えるのは理想です。そこから逆算して起床時間を設定するのが理想です。ただ、早過ぎて睡眠時間が十分ではない場合は、朝食の内容を考慮して消化に良いものを選ぶのも良いと思います。昼寝は、30分以内として起床後は、日光を浴びてしっかりと覚醒させることが重要です。寝る直前にカフェイン(コーヒー)などを接種しておくと、起床時の覚醒を助けてくれます。
Q. ナイターゲーム後の時に、睡眠までの水分補給の目安はありますか?
A. ナイターゲームに関わらず、ゲーム前後で体重を測定しており、失われた体重(=水分)はできるだけ早く回復させるように伝えています。これを一つの目安にしてもらうのが良いかと思います。
Q. 2部練習の時のAMトレーニングからPMトレーニングとなると理想的な過ごし方は難しいと思いますが、選手にはこういう過ごし方がいんじゃないか等何かアドバイスされていましたか?
A. AMトレーニング後は素早く昼食を摂るようにしてください。その後昼寝は、30分以内として起床後は、日光を浴びてしっかりと覚醒させることが重要です。寝る直前にカフェイン(コーヒー)などを接種しておくと、起床時の覚醒を助けてくれます。
■登壇者プロフィール
1979 年生まれ、東京都新宿出身のプロサッカー選手で、浦和レッドダイヤモンズなどで活躍しました。2003 年には日本代表にも選出されチーム初得点を記録し、ジーコジャパンの初勝利に貢献。2007 年には AFC チャンピオンズリーグ決勝で先制点を決め、大会 MVP に選出されるなどの経験を持ち、現在は神奈川県社会人リーグ 1 部で活躍する「はやぶさイレブン」に所属し、監督兼選手として活躍中。
1985 年生まれ、静岡県清水市出身のプロサッカー選手。J リーグのジェフユナイテッド市原(現:ジェフユナイテッド市原・千葉)でプロデビュー後、2005 年 U-20 日本代表(20 歳以下)に選出され、FIFA ワールドユース選手権に出場。2007 年には北京オリンピックを目指す U-23 日本代表にも選出されました。日本代表として 4 試合出場の経験、海外移籍などを経て、現在「はやぶさイレブン」で活躍中。
◇株式会社ライフパフォーマンス 代表取締役/なでしこジャパン兼U-19日本代表フィジカルコーチ 大塚 慶輔氏
1977 年 6 月生まれ。国際武道大学体育学部、筑波大学大学院体育研究科を修了後、アルビレックス新潟ユースでフィジカルコーチとしてのキャリアをスタート。その後、J リーグ「ジェフユナイテッド千葉」や「アルビレックス新潟」、「モンテディオ山形」、 「FC 町田ゼルビア」といったトップカテゴリーでの指導をはじめ、筑波大学附属駒場中高校サッカー部やジェフユナイテッド千葉アカデミーなど育成年代の指導も歴任。教員や研究者としての職歴もあり、豊富な知識・経験をもとに多くのアスリートの成長に寄与しています。2018 年から 3 年間「大宮アルディージャ」でフィジカルコーチ。2021 年からは、日本サッカー協会にて U-19/16 の日本女子代表フィジカルコーチ、さらに 10 月より日本女子代表(なでしこジャパン)のフィジカルコーチに就任し、日本女子サッカーの育成強化に携わっています。
▼日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
▼AFC フィットネスコーチレベル 2
▼日本サッカー協会 B 級
◇医学博士/日本リカバリー協会 代表理事 片野 秀樹氏
1965 年、神奈川県生まれ。2005 年に株式会社ベネクスの創業メンバーとして起業する傍ら、日本未病総合研究所の未病公認講師(休養学)としての活動に取り組んでいます。さらに 2021 年には「休養」を学問として体系立てた編著書『休養学基礎』(メディカ出版)を刊行するなど、「休養」の重要性と認知度を高める活動を展開しています。