今回はべネクスがより疲労やリカバリーの研究を行うために、理化学研究所生命機能科学研究センター チームリーダーの渡辺恭良先生にべネクス最高技術アドバイザーに就任いただいたことを記念して、渡辺先生にリカバリーウェアの今後の可能性などをお聞きしました。
RLスタッフ:渡辺先生とは以前から様々な研究で、ご一緒させていただいておりました。まずは、べネクスとの今までのお取組みや、最高技術アドバイザーにご就任頂くにあたっての期待など、お伺いできればなと思っています。
渡辺先生:べネクスとは以前から、リカバリーウェアのいくつかの実験データを基に、評価をさせていただきました。そのため、リカバリーウェアに関しては、以前から科学的根拠も含めて理解していますし、リカバリーを科学し社会に貢献する企業理念を持っている会社だと思っています。そういった経緯もありまして、今回べネクスの最高技術アドバイザーの職に就任させていただきました。
RLスタッフ:べネクスにはどのような期待や可能性を感じていらっしゃいますか。
渡辺先生:最初はアスリートの方へのリカバリーの提供が中心だったと思いますが、最近では一般の方々のリカバリーも含めて、事業を行っているところに、今後さらに期待しております。また、リカバリーウェア自体もまだまだ可能性を秘めていると感じています。ウェアを活用して、個人の体調を整えるということを、技術課題として行っている会社はまだまだ少ないかと思います。健康面からの社会貢献としても、体温調節をはじめ、保湿・美容・健康といったところで、リカバリーウェアの可能性は今よりも、もっと大きな市場があるのではと期待しています。
RLスタッフ:先生のお話を聞くと、私たちもさらに成長をしなくてはと思います。
渡辺先生:ウェアという商品だけではなくて、リカバリーウェアを活用するためのヨガのプログラムを開発していたり、休養やリカバリーに関する専門家も教育・育成をされている。ヘルスケア産業としての、ベネクス社の立ち位置というのは、社会の課題を浮き彫りにして、それに対して新たなソリューション(解決方法)の開発などで、かなり大きなフィールドを担っていると思っています。
RLスタッフ:以前、先生と研究を進めている時に、「日本が疲労に対するソリューションの先進国として、海外への展開も期待できる」というようなお話を伺った覚えがあります。そういう意味では、ベネクス社も海外への発展も考えていますが、まずは日本の疲労に対するお考えをお聞かせください。
渡辺先生:疲労の研究を国内外で長年行っていますし、毎年ベネクス社(及び日本リカバリー協会)とも、疲労状況のアンケート調査などをしています。最新の調査によると、日本人の約8割の方が何かしらの疲労を感じているようです。特に、日本人というのは「疲れている」ということが言いやすい文化にあることは明らかで、「疲れている」と言ったほうが働いている、活動している証と捉える風潮があります。つまり「疲れている」ということが、それほどネガティブに捉えられていないということです。
RLスタッフ:確かに、そのような意味合いで捉えている方が多い気がします。
渡辺先生:例えばアメリカなどを例に挙げると、多民族で構成される厳しい競争国家では、「疲れている」ということを外で言うのはまずいんですね。自分の弱みをさらけ出しているようなもので、もっと言えば、疲れやすいということは、毎日の体調管理がなっていないという話になってしまいます。
RLスタッフ:そう聞くと、日本との違いが明確ですね。
渡辺先生:日本でアンケート調査をすると「疲れていない」と言うと、十分に働いていないと思われてしまうという意識が働くので、「疲れている」と回答をしてしまう。言い方を変えると、「疲れています」と言いやすく、疲れている人に対して優しいのが日本の特徴です。ただ一つ言えることは、これまで日本はそれほど激しい競争社会ではありませんでしたが、現代では、競争社会の側面はやってきていますし、睡眠時間が本当に短い国なので、リカバリーに対する要求は強いと思います。
RLスタッフ:今後の日本社会を維持するには、リカバリーの視点は誰しもが取り入れていく時代になりつつありますね。
渡辺先生:朝の満員電車や交通の問題も依然としてありますし、最近ではDX化など日本人にとっても環境が大きく変化している状況で、リカバリーウェアの持っている潜在的な力などは大きいと思いますし、そのような発想でリカバリーに関するソリューションを開発していくことは、日本社会において必要性が高いと思います。
RLスタッフ:今お話のあったリカバリーウェアですが、衣服を使った健康ソリューションの可能性を、もう少し踏み込んでお聞かせ願えますか。
渡辺先生:ウェアに求められることは、基本的には通気性や保湿性であったり、体温調節などになると思います。暑い時期だと、皆さん首の頸動脈を中心にして冷やしていると思います。それは医学の視点からの考え方ですが、重要なのはどこを冷やすか、逆にどこを温めると体温調節につながるかで、そういうことはしっかりと解明されてきています。しかし、場所、部位ごとのポイントまで、しっかりと科学したウェアというのは非常に少ないのではないでしょうか。
RLスタッフ:生地についての機能性の視点は、商品開発に活かしているところはありますが、そこまで身体に寄り添った考え方はあまり聞いたことはありません。
渡辺先生:例えば、汗をかいて衣類にしみ込んでいきますと、涼しいところに入ったら、冷えてくる。そうした時に、水分を飛ばせる通気性と、逆の保湿性があること、またそれが部位によって科学されていることが望ましいです。通常は、寒いと何枚か重ねるとか、着心地が良いものを選ぶなどだと思いますが、我々としては、繊維に何かしらの形で生体情報を常時取得し、それらのフィードバックによる最適化機能を仕込んで実現することを目指して行きたいですね。
RLスタッフ:最適なコンディションを作る繊維の開発のようなイメージでしょうか。
渡辺先生:温めるなどは色々な繊維がありますが、やはりナノプラチナなどを使用しているべネクスのPHT繊維の活用で、自律神経のコントロールなどが上手くできないだろうかと、そんなところを今考えています。
Profile
【渡辺恭良プロフィール】
理化学研究所生命機能科学研究センター・チームリーダー
大阪市立大学 名誉教授
大阪公立大学健康科学イノベーションセンター・顧問
一般社団法人日本疲労学会理事長
一般社団法人日本リカバリー協会会長
京都大学医学部卒、京都大学大学院医学系研究科修了(医学博士)、大阪バイオサイエンス研究所・研究部長、大阪市立大学大学院医学研究科・教授、同健康科学イノベーションセンター・所長、理化学研究所分子イメージング科学研究センター・同ライフサイエンス技術基盤センター・双方のセンター長、理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックスプログラム・プログラムディレクターを経て、現職。ベルツ賞、文部科学大臣表彰科学技術賞など受賞。