【専門家インタビュー】ザスパ群馬 青木トレーナー Vol.2「前日練習参加率という指標、"逆ソフトクリーム理論"実現のため疲労を分類しデータで管理」

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2023年シーズン、ザスパ群馬はプレーオフには届きませんでしたが、チームの躍進の裏側に、フィジカル及びリカバリー戦略の大きな変化がありました。今回はその躍進の裏側を支えていたフィジカルコーチの青木豊さんに、2023シーズンの振り返りをお聞きしました。

前回の記事はこちら→【専門家インタビュー】ザスパ群馬 青木トレーナー Vol.1「チーム強化のためソフト面、ハード面を整える。個々の選手が自身と向き合うライフマネジメントからメディカル環境の整備まで」

RLスタッフ:1年目の2021年シーズンはメディカル環境を整えたと伺いましたが、2022年シーズンからの次のステップはどのようにされたのですか。

青木コーチ:2022年から大槻監督が就任し、次々にクラブに変化がありました。特に、練習強度が上がったことが大きくありました。反面、怪我からの復帰の部分が心配だなと考えていました。メディカル環境は徐々に整って来ましたが、リハビリテーションから競技に戻る部分ではまだ課題がありました。2022年はコンディショニングコーチとしての役割でしたので、リハビリ環境を整えることを目標に活動をしました。

RLスタッフ:具体的なアプローチを教えていただけますか。

青木コーチ:チームにプレゼンして、様々なトレーニング機器や医療機器を取り揃えてもらったことですね。環境面の向上により、怪我した選手も安全に効率的にチームに戻れるようになり、何人かの選手は怪我する前よりもパフォーマンスが向上したという声も聞くことができました。

RLスタッフ:チームの考え方も柔軟だったのですね。

青木コーチ:はい。それは有り難いことでした。そして2023年はフィジカルコーチとしての役割になり、チームの負荷の管理を担当することになりました。大槻監督から戦術とフィットネスを合わせるようなプログラムを作ることをお題として頂いたので、色々と取り組みました。なので、大きく捉えると3年間の取り組みとしては、まずはメディカル環境、そしてリハビリ環境、次にトレーニング環境との連携、という風に、それぞれの役割において、実際の試合中のパフォーマンスを基準に、環境面とシステム面の構築を目指しました。いつも選手が成長できているかを考えているように計らいました。

RLスタッフ:ありがとうございます。私なんかは、選手が怪我をしたら診てもらえるのは当たり前なのかなと思ってしまっていましたが、少しびっくりしてしました。

青木コーチ:チーム事情によりますが、環境を整えていくことは重要ですね。

RLスタッフ:次に、2023年シーズン、大槻監督が行いたい戦術に合わせたトレーニングとコンディショニングのアプローチのお話を詳しく教えてください。

青木コーチ:その点では、2つお話できればと思います。1つは「前日練習参加率」という数値で振りかえってみようと思っています。もう1つは、結果が出た要因としての、リカバリーコンセプトに基づいた管理というところです。

RLスタッフ:「前日練習参加率」とはどのようは指標なのでしょうか。

青木コーチ:あまり聞きなれないかもしれませんが、メディカルスタッフの貢献指標としてまとめているものです。ヨーロッパ地域では採用をしているチームがありますが、「練習参加率」が90%超えていると、チームのパフォーマンスが維持されるというデータが出ています。

RLスタッフ:「練習参加率」でどのようにチームに貢献されるのですか。

青木コーチ:基本は、公式試合の前日練習における参加率を見ることです。つまり、怪我等で抜ける選手が少なく、公式戦前日練習に多くの選手が参加できているということは、多くの選手がメンバーとしてテーブルに上っているということになります。怪我や病気による損失が少なく、チーム内競争力があり、監督の戦術選択がしやすい状態=チーム力が維持できているということなります。

RLスタッフ:2023年シーズンはそこが改善できたということですね。

青木コーチ:具体的な数値で見ると2021年は83.3%(コロナ等内科疾患除く)、2022年シーズンは約89.9%(コロナ等内科疾患除く)になっています。チームが30人前後なので、常時78人が離脱していました。2023年シーズンは目標の90%を達成し、前日練習参加率は92.1%(内科疾患を含む)になりました。しかも、年間の全練習における参加率が89.0%になります。それを強度のある負荷の高いトレーニング計画の中でそれが実現できたのは、選手の練習に向かうコンディショニングへの意識、メディカルスタッフのケアの力と負荷の管理が計画的にできたのかなと思っています。

RLスタッフ:もう1つの、リカバリーコンセプトに基づいた管理についても教えて下さい。

青木コーチ:これについては、監督の理論に基づいた年間計画を立ててサイクルを回しています。

RLスタッフ:大槻監督の理論気になりますね。

青木コーチ:監督からは、「逆ソフトクリーム理論」というイメージが出てきました。オリジナルな理論なので、半年ぐらい試行錯誤していましたが、やっとビジュアル化して整理しました。トレーニングの計画的な区分けのことですが、ソフトクリームを逆にすると、だんだん渦巻が大きくなる図が浮かぶと思います。トレーニングのサイクルを、6週間×7回のサイクルで大きくしていくような計画の立て方のことです。

RLスタッフ:またまた初めて聞くキーワードです。

青木コーチ:そうですね。そのサイクルで年間を通して選手の成長を促すことを目的としています。だんだんとトレーニング負荷の強度や量が増え、自然と筋肉量も増える。そうすると、試合中でいえば、守備の時に5cm近くに寄せられるようになり、プレッシャーがかかり、相手が顔を上げている時間が無くなり守備ブロックを形成できたり、ゴール前に強い動きでアクションできる回数が増えるなどを意図的に毎日の練習に落とし込みました。

RLスタッフ:その理論に基づくと、疲労への課題が出てきそうですね。

青木コーチ:そうですね。なので、練習負荷はGPSONETAPSPORTSなどのコンディショニングソフトウェアを活用して、数字の事実をもって監督と相談して、練習負荷の調整やコンディションの把握をしたのが大きな怪我が減った要因かなと思います。

RLスタッフ:選手の疲労の把握は、トレーナーにとって重要ですね。

青木コーチ:そうですね、特に2022年は連戦時と、夏の時期に勝てなかった、この2つがチームの課題でしたので、リカバリーコンセプトを取り入れました。具体的に行ったのが、ただ疲れたと一言で終わらせないで、疲労を感じ分けようということから始めました。

RLスタッフ:疲労を感じ分ける。今日3つ目のキーワードです。

青木コーチ:「疲れた」を5つに分類しています。「疲れた」を分類し限定することで、限られた時間の中で、どのアプローチが最適かを検討します。先ほど出たONETAPSPORTSを活用して、毎日管理しています。

RLスタッフ:データを使いこなすことの重要性は頭では分かりつつも、ここまで現実的なアプローチをしているトレーナーさんはあまりお目にかかりませんよ。

青木コーチ:管理をソフトウェアで記録しているので、情報の見える化、各セクションとの情報共有や選手への即時のフィードバックがしやすくなりました。例えば、体重が減っている選手に対しても、フィードバック時に、負荷が足りないのか、栄養が足りていないのか、疲労などそれ以外の要因なのかを分析し、専門スタッフと相談してから、選手へアプローチが可能になりました。

Profile

青木 豊

現職:ザスパクサツ群馬 トップチーム フィジカルコーチ
経歴:長坂フットボールクラブ コンディショニングコーチ
アイン食品サッカー部 トレーナー
もぎスポーツ整形外科クリニック リハビリ室長
株式会社BIG BEAR アスレティックトレーナー
大宮アルディージャ アカデミー アスレティックトレーナー
大宮アルディージャ トップチーム アスレティックトレーナー
株式会社ライフパフォーマンス パフォーマンスセラピスト
ザスパクサツ群馬 トップチーム コンディショニングコーチ

公式HP:
https://thespa.co.jp/
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