【専門家インタビュー】WINフロンティア株式会社 駒澤氏 Vol.2「プロの人の技術の差って、ほとんど紙一重。一流に学ぶ自律神経のコントロール術」

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アスリートのパフォーマンスの発揮には、自律神経の働きが深く関係していると言われています。

今回は、ウェアラブルセンサを用いた自律神経等の効果測定及び生体ビッグデータ解析事業を行うWINフロンティア株式会社の駒澤真人さんより、アスリートと自律神経の関係についてお聞きしました。

前回までの記事はこちら→【専門家インタビュー】WINフロンティア株式会社 駒澤氏 Vol.1「なぜ、自律神経に注目が集まるのか?自律神経とパフォーマンスの関係について」 | 休養・リカバリーウェアのVENEX(ベネクス) (venex-j.co.jp)

RLスタッフ:
これまで数多くのアスリートの方々を計測してこられたと思うのですが、アスリートの方々は、自律神経のコントロールだとか、自律神経への意識は一般人よりも高いものなのでしょうか?

駒澤氏:
はい、自律神経への意識は非常に高いと思います。プロの人の技術の差はほとんど紙一重ですので、本番において平常心でいかにパフォーマンスを最大限に発揮できるかが重要となります。自律神経の状態が悪いと、緊張で本来のパフォーマンスを発揮できなかったりしますので、一流の選手ほど本番で最大限パフォーマンを発揮できるように、普段から自律神経をコントロールする意識が高いと言えます。

RLスタッフ:
自律神経がそこまで重要視されているのですね。

駒澤氏:
あとは怪我のリスクですよね。ある野球チームでも、自律神経測定を導入した理由の一つは怪我の防止です。自律神経を可視化して選手自身で把握するという目的もあるのですが、コーチ陣、トレーナー陣が把握することで、練習の負荷の調整をするということです。例えばこの選手は、今日はトータルパワーが低いから、あまり無理させないように練習の負荷を下げよう、などの調整が出来ます。

逆にトータルパワーがすごく高い人は、より負荷を上げてトレーニングさせるなど、昨今はこのような自律神経の測定などを活用して科学的に選手のコンディションを管理し、トレーニングメニューを調整する取り組みが増えてきています。

RLスタッフ:
怪我の予防のためにトータルパワーに注目する、ということですね。トータルパワー=活動できる状態だと。

駒澤氏:
そうですね。身体の元気度とも言えます。簡単に言うと、元気がなく弱っている状態で一律みんな同じ練習をしてしまうと、トータルパワーが低い人は怪我をしやすかったり、ちょっとしたことで疲労を感じて、オーバートレーニングになったりしてしまうというリスクが発生します。

RLスタッフ:
アスリートの方々の計測を行っている中で、注目している数値などありますか。

駒澤氏:
まずは、これまで述べてきた、トータルパワーが高いか低いかですね。この数値が高いということが大事です。当社が開発した自律神経の測定器は、年齢を加味したスコアが表示されるので、前回お話しした野球の監督さんの場合は年齢の割に非常に高い数値だったということになります。トータルパワーが高いということに加え、交感神経と副交感神経のバランスですね。一流の選手の方は自律神経のバランスが良い傾向にあります。

RLスタッフ:
それは競技によって変わるものでしょうか?そもそもプロというレベルだとそういう方が多いのでしょうか?

駒澤氏:
競技に関わらず、総じてプロの領域までいかれた選手ですと、トータルパワーが高く、自律神経のバランスが取れている人が多い気がします。

RLスタッフ:
なるほど。トータルパワーが低いというのは、単純に疲れているという認識でいいのでしょうか?

駒澤氏:
そうですね。疲労が蓄積されている状態ということです。我々のデータや先行研究でも、慢性疲労症候群の方や、うつ病などの疾患の方はトータルパワーが低いと言われています。

RLスタッフ:
トータルパワーが低い人は、交感神経・副交感神経、両方とも低くなるのでしょうか?どちらかが低くなりやすいということはありますか?

駒澤氏:
傾向としては、副交感神経が低くなることで、トータルのパワーが落ちてしまう事が多いと言われています。

RLスタッフ:
アスリートには、試合前のストレスだとか、プレッシャーもあると思います。さらに怪我も含めたモチベーション維持だとか、うまくパフォーマンスが出ないとか。そういったメンタル面、ストレスに関する部分で、自律神経との関係やコントロールなどのお話をお伺いしたいと思います。

駒澤氏:
ストレスがかかると、交感神経が活性化する方向に行きます。そのため、日常生活の中で、いかにストレスを軽減、コントロールするかが重要です。一方、モチベーションの話になると、逆に副交感神経があまりにも高すぎると、日中に無気力、やる気が出ないなどの影響がありますので、シチュエーションにもよりますが、極端すぎるのはあまり良くありません。その為、自律神経を測定して、自身の自律神経のタイプ(交感神経優位型か副交感神経優位型か)を知ることで、普段どちら側にギアをいれた方が自律神経のバランスが取れるのかを知ることは大事であると思います。

RLスタッフ:
自分が普段、交感神経優位なタイプか、副交感神経優位なタイプかを知っておくべきだと。

駒澤氏:
そうですね。現代のストレス社会では、圧倒的に交感神経優位型が多いです。その為、普段の生活でも、意識的に合間のオフの時間でバランスをとるということが大事かと思います。

RLスタッフ:
アスリートの方ですごく良い自律神経コントロールをされている方は、どんなことをやっているのでしょうか?

駒澤氏:
これまで測定した事例の中で興味深かったのは、スキー選手の事例です。ご自身のウェアを選ぶときに、どの色のウェアのときに自律神経のバランスが良くなるかを測り、複数の色での実験の結果、最も自律神経のバランスが良くなる色のウェアにされたのです。それで実際に結果を出された選手がいらっしゃいます。本番の時に自分が落ち着く色を見ることで自律神経のバランスが取れて、良いパフォーマンスが発揮できたのですね。

他にはテニス選手で、リストバンドにアロマの香り2種類、左右別々の香りを入れるという選手の話を聞いたことがあります。緊張している時はリラックスする香りをかぎ、逆に気分を上げたい時は柑橘系のような活性化する香りをかぐなど、試合の状況により、香りでバランスをとっている方もいらっしゃいますね。あとは音楽で自律神経のバランスを調整するような事例があります。

RLスタッフ:
いろんな方法があるのですね。そういう意味では自律神経はコントロールできるものと言えるのでしょうか?

駒澤氏:
そうですね。自分の意思で意図的にコントロールできる方法は呼吸です。吐く息を長くすると副交感神経が刺激され、リラックス状態にコントロールすることができます。まさに、吐く息を長くする深呼吸がそれにあたります。

RLスタッフ:
先ほどの話で、副交感神経優位なタイプの方はアスリートに多いということでしたが、副交感神経が高い方が向いている競技などはあるのでしょうか?

駒澤氏:
野球の領域だと、過去のキャンプでの自律神経の測定の時に、副交感神経優位なタイプは抑えのピッチャーに向いているのではないかという話がありました。なぜかというと、9回の裏で、ものすごい緊張の中で登場するわけなので、普段は副交感神経優位なタイプで、マウンドに立つと適度な緊張で交感神経が上がり、自律神経のバランスが良くなる選手が向いているのかもしれません。もちろん、技術があっての話しですが。

RLスタッフ:
そうすると、スポーツの競技のカテゴリーというよりはカテゴリーの中での役割というか。

駒澤氏:
そうですね。先ほどの野球の監督さんも、試合直前に選手の自律神経を測定して、選手の状態に合わせて、選手の起用を考えると面白いかもね、なんてこともおっしゃっていました。

Profile

【駒澤 真人 プロフィール】  

WINフロンティア株式会社 取締役
順天堂大学 大学院医学研究科 客員准教授
芝浦工業大学 大学院理工学研究科 客員准教授
東京理科大学理工学部卒、東京工業大学大学院総合理工学研究科卒、神戸大学大学院システム情報学研究科博士課程修了(博士(工学))

IT企業にて、企業、官公庁向けシステムの開発事業に携わった後、WINフロンティア株式会社に創業時から参画。ウェアラブル技術を活用し人間情報をセンシング、評価分析、システム化して実応用まで繋げる研究で工学博士号を取得。160万以上ダウンロードされているストレスチェックアプリ「COCOLOLO」などを世に送り出した。企業、大学、自治体、医療機関などと連携し、商品・サービスの快適性を評価する感性工学プロジェクトや、人間の健康やクリエイティビティをサポートするプロジェクトに百件以上携わる。医工連携のプロジェクトにも数多く携わり、工学技術を医療現場へ応用することに注力している。

[主な著書]

『ストレス・疲労のセンシングとその評価技術』(第7  指先の指尖脈波を用いたココロのバランスをチェックするシステムの開発、技術情報協会、2019年)

『人間情報学 快適を科学する』(第6章 ウェアラブル技術を活用した心拍変動による感情解析と実用化、近代科学社、2022年)

WINフロンティア株式会社のご紹介】

https://www.winfrontier.com/

自律神経を中心とした人間情報センシング技術により、商品・サービスなどの効果検証やヘルスケアアプリの開発、生体情報を活用した新規事業のコンサルティングまで幅広くサポート。また、AI時代の到来で人間が人間らしくあるために、クリエイティビティに関する研究などもおこなっており、人間情報センシングの技術と認知科学・生理心理学の知見を活かして、クリエイティビティとウェルビーイングの向上に貢献する会社。

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