ベネクス商品部が3年をかけて開発したニットサッカー生地を使ったパジャマが、2023年4月末から順次発売となります。他部門のスタッフも知らない開発秘話を商品部の企画担当 西浦さんと生地開発担当 井口さんにお伺いしました。
RLスタッフ:デザイン面から、体温の変化や睡眠時の衣服内環境にこだわったポイントはありますか?
西浦さん:そうですね。パジャマ全般的に言えることですが、上下ともにゆったりとしたシルエットで作られているのが特徴としてあり、今回のパジャマもそうしています。例えば、ネック周りやアームホールの広さ、股上の深さや股下とのバランスなどです。
RLスタッフ:細部へもこだわりがあるとか。
西浦さん:唯一締まりがあるウエスト部分ですが、いつも使っている平ゴムというウエストゴムとは違う、締め付けがきつくないニットのゴムを使っています。通気性もよいパジャマ専用のゴムになっていて、睡眠時に相性の良いものを選定しています。
RLスタッフ:素材面からもシルエットやデザイン面からも衣服内環境を考えたものになっているのですね。デザインの視点から見たときに、今回井口さんが開発された素材の使いやすさ、使いにくさ、苦労などはありましたか。
西浦さん:ベネクスが展開するパジャマ以外のリカバリーウェアもそうですが、上下同じ色味のものをコンビで作ることが多いです。今回も、もちろんパジャマなので上下同じ色。サッカーの生地なので、表面に畝(うね)があり、シボ感があって、デザインで言うと、平らに見えるような感じでもないですが、どうしても上下同じ色だと単調な見え方になりがちです。アクセントがない分、味気のないものになってしまいがちなところを、ネック回りのバインダーや、前立てに別素材を使って、色の配色をつけることで、上下の見え方が引き締まり、パジャマの印象が薄くならない様にコントラストをつけました。
RLスタッフ:デザイン面からも思いが詰まっていますが、開発には3年かかったと聞きました。苦労された点はどんなところになりますか。
井口さん:最も苦労したのは、サッカーの特徴であるシボ感を出すことです。綿100%でサッカー生地を作るのであれば、綿が縮んでくれることでシボ感を出せるのですが、弊社の場合、ポリエステルのPHT糸を必ず入れるという制約があるので、それを入れることによってシボ感が薄れてしまうんです。開発が始まった当初は、何度かサンプルで生地を上げても、全くシボ感がなく、たての畝(うね)だけが出て、いわゆるリブのような見え方になってしまっていました。PHT糸を入れる配列を工夫することで、最終的にはシボ感を表現できたのですが、そこに至るまではかなり苦労しました。
RLスタッフ:解決方法まで至ったアプローチの間にはどんなことを試されましたか。
井口さん:先ほどお話しした、PHTの糸の配列は良い形にたどりつくまで何パターンか試しました。ポリエステルと綿の生地の場合、目を凝らしてよく見ると、それぞれの糸の見え方が違うのがわかるんです。その陰影で、シボ感がより見えやすい配列をニッターさんと考え、ようやく今の形になったという経緯があります。
商品部生産管理 細谷(右)も加え製品確認
RLスタッフ:リカバリーウェアにおいて、PHT繊維を技術の核にしているベネクスならではの苦労なのでしょうか。
井口さん:そうですね。そういう意味でいうと、ベネクスではこの鉱物の入ったPHTのポリエステル糸を必ず入れなくてはいけないところと、お客様の好みで選んでいただけるだけの素材の種類の提供、また良い品質でありながらもなるべくご提供価格を抑えるために、効率面の制約も関係してくるところが難しいですね。単純にサッカーの生地を作りたい場合、組成や糸の太さに制約がなくて、例えば綿100%で作るケースではそんなに苦労なくできると思います。綿とポリエステルを使って作るという場合でも、弊社のPHT糸ではないポリエステルで、例えば、特徴のある糸を使えば、こういう苦労の仕方はしないと思います。
RLスタッフ:ベネクスの機能である、PHT繊維というものを使って新しい表現をするには、なかなか大変だということですね。
井口さん:そうですね(苦笑)
RLスタッフ:ベネクスとして、PHT糸を使うことは、当たり前のことではあると思うのですが、なぜそこまで苦労しても開発して、届けたいという熱意があるのか。ベネクスのポリシーというか、開発ポリシーなんでしょうか。
井口さん:お客様に好みに応じて選んでいただきたいという思いと、私個人としては執念ですかね(笑)
RLスタッフ:やり遂げる熱意ですね(笑)
井口さん:はい(笑)。ニットサッカーをなんとしてもお客様へ届けたい、という意味での執念です。今回のニットサッカーはお客様や、世の中的にパジャマと言えば、綿の風合いを感じる生地で、なおかつ表面感があって、数年使えそうなものというイメージを持たれていると感じていて、それをニットサッカーとして絶対表現したい!という気持ちがありました。
RLスタッフ:今までのリカバリーウェアの生地の作り方の延長線上では、ベネクスが表現するパジャマが思い浮かばず、そのために適した生地を必ず作るんだ、という思いが詰まっているのですね。でも、世の中のパジャマの当たり前をベネクスのリカバリーウェアにすると、めっちゃ大変という(笑)
井口さん:そうなんです(笑)。前シーズン(2022年秋冬)では、タッチやヒートのパジャマを限定で発売しました。タッチという素材は元々ポンチという組織の素材なのですが、ポンチ素材のパジャマって、そもそも世の中でほとんど見たことがない、一般的ではないんです。また、よく見るパジャマは布帛(織物)が多いなかで、ニットでほど良い肉感で再現することは、ハードルが高いんです。
RLスタッフ:ニットサッカーは開発者としてやりがいがあったのですね。
井口さん:そうですね、元々パジャマとしてやりたいというのが先にあったので、そういう意味では、パジャマという物を見据えて、想像していくなかでの開発でした。そういう意味ではやりやすかったけれども、苦労も多かったですね。色々ありました(笑)
RLスタッフ:PHTを使って、当たり前のパジャマを作ることがこんなに大変だということがよくわかりました。
井口さん:はい、別に何でも好きな材料で作っていいよ。表面の表情も別に何もいらないって言われたら、こんなに苦労してないですね。でも、リカバリーを追求してきたベネクスがお届けするからこそ、PHTの機能に加えてデザインや、素材、風合いや見た目も含め、リカバリーの考え方をお届けしたいと思っています。
Profile
西浦 周
神奈川県生まれ、横浜洋裁学園ファッションビジネス科 出身。在学中から働いていた神奈川の古着屋の販売員からアパレル業界に入り、その後NYC sohoのセレクトショップが展開するMade in JAPANオリジナルブランドの企画、デザイナー、生産、グラフィックデザイナーを担当。フリーでのグラフィックデザイナー活動も経てベネクスへ入社。アパレルでの経験を活かし商品部の生産管理からはじまり、製品品質・開発・企画までの業務を担当。「着るだけで休養をサポートする」そんなリカバリーウェア ベネクスの製品に感銘を受けるとともに、「すべての人を元気にします」という理念に共感し、「誰もが着てみたくなるリカバリーウェア」を心掛けモノづくりに携わる。
<保有資格>
休養士2級
井口 恵理子
東京都生まれ。文化学園大学 服装学部服装造形学科 出身。3年次から機能デザインコースで人体生理に基づく機能的な衣服について学ぶ。ベネクスでは商品部の生地担当として生地の量産・開発・品質管理を担当。「心地いい」をキーワードに生地の開発に取り組んでいる。1つの生地を量産に繋げるまでに多い時では10回に及ぶ試験を繰り返し、発売(販売)後もお客様の声に耳を傾け、改善を繰り返してよりよい商品をお客様にお届けし、愛用頂けるモノづくりを目指している。
2021年、「疲労を防ぐ!健康指導に活かす 休養学基礎」(メディカ出版発行)を一部執筆。
2022年、「産業保健と看護 第14巻5号」(メディカ出版発行)休養学のススメ 第3回を執筆。
<素材開発実績>
・コンフォートヒート
・コンフォートクール
・コンフォートポンチ
・スタンダードライト
・コンフォートタッチ
・国産コンフォートダブル
・おうちインナー肌着
・おうちインナーブラショーツ
・リカバリージャージ
・リカバリーパジャマ ニットサッカー
<保有資格>
・繊維製品品質管理士(TES)
・衣料管理士(テキスタイルアドバイザー)1級
・カラーコーディネーター検定2級
・休養士2級